遺言書があると相続手続きがスムーズなケース

遺言書

 遺言書というと「自分には関係ない」と思われる方がまだまだ多いのですが、それは昔の話になりつつあります。現代においては、生活スタイル・考え方の多様化、高齢化など以前にはなかった様々な特徴によって、遺言書を書いておいたほうがよいケースが本当に多く存在します。
 遺言書がなかったために残された人が大変な思いをするだけでなく、亡くなられた方が望んでいなかった結果になってしまうこともあります。ご自身の遺志をしっかり残し、そして残される人達のためにも遺言書を準備しておくことをお勧めします。
 特にこんな場合は遺言書があると良いというケースを、順番に見ていきましょう。

1.相続人の中に、体が不自由な方や障がい・認知症などにより意思能力がない方がいる又は将来そうなっている可能性がある場合
 遺言書がない場合に相続手続きを進めるためには、相続人全員で遺産分割協議を行い、話し合った内容を書面にし実印を押印、更に印鑑証明書を添付することになります。
 相続人の中に自力で外出できない方がいたとしても、その方が印鑑登録をしていなかったら、まずは役所で印鑑登録をしなければなりません。本人を連れ出すにしても、代理で手続きを行うにしても、人手や時間がかかります。また、相続人の中に障がいや認知症で意思能力がない方がいる場合には、本人の代わりに成年後見人が遺産分割協議に参加する必要があるため、まずは家庭裁判所に成年後見人選任の申立てをする必要があります。
 相続人が一人だけの場合には遺産分割協議は不要ですが、その方が寝たきりだったり認知症だった場合、手続きを行うためには、やはり代理の方や成年後見人が必要となってきます。
 これらの状況は、高齢化によって十分起こり得ることです。このような場合に遺言書があると、遺産分割協議をする必要がなく、遺言書の通りに手続きを進めることができます。

2.相続人の中に海外に住んでいる方がいる場合
 現代においては、家族が海外に住んでいるという場合も珍しくありません。このような場合に遺言書がなく、遺産分割協議をして必要書類を集めることになった場合、日本の書類(戸籍や印鑑証明書など)に替わるものを集めなくてはなりません。日本の役所ですぐに取得できる場合と違って時間や手間がかかってくることが多くなります。
 このような場合にも、遺言書があると書類集めの手間などがなく相続手続きを進めることができます。

3.相続人の中に連絡が取れない方がいる場合(前妻(夫)との子の連絡先が分からない場合なども)
 家族であっても、様々な事情から連絡が取れなくなってしまうことがあります。連絡がとれないまま被相続人が亡くなり遺言書がない場合、家庭裁判所に連絡が取れない方の代わりとなる人(不在者財産管理人)の選任を申立ててから遺産分割協議をする必要があります。

4.前妻(夫)との間に子がある場合
 前妻(夫)との間に子があるが疎遠になっているという場合でも、その子が相続人であることに変わりはありません。そして、前妻(夫)との子と現在の配偶者との子は同じ「子」ですので、相続分の割合は同じです。
 このような場合に遺言書がないと、残された現在の配偶者と子が、全く面識のない前妻(夫)との子に連絡をとり、遺産分割協議をすることになります。(その子と連絡が取れない場合は、3で記したように家庭裁判所での不在者財産管理人選任の申立てが必要となります。)
 生前にきちんと財産分けをして遺言を残すなど、適切な方法でこのような事態を避けることができます。

5.夫婦の間に子がない場合
 子がない夫婦の一方が亡くなると、残された配偶者が全財産を相続すると思われがちですが、亡き配偶者の親あるいは兄弟姉妹も相続人となります。この場合に遺言書がないと、残された配偶者は「義理の親」あるいは「義理の兄弟姉妹」と遺産分割協議をすることになります。更に、義理の兄弟姉妹が亡くなっていた場合はその子(義理の甥姪)とも遺産分割協議をすることになります。
 これに対して、夫(妻)が「全財産を妻(夫)に相続させる」という遺言をしておけば、先のような遺産分割協議をする必要はなくなります。また、夫と妻相互に遺言をしておくことをおすすめします。

6.独身の方の場合(特に40代、50代以上の方)
 独身の方が亡くなった場合の相続人第一順位は、両親(祖父母)です。40代、50代の方の親世代の多くは70代、80代。存命ではあっても身体的に不自由な方や認知症の方がいる可能性が高くなり、1.で触れた問題が出てきます。
 また、高齢のため、預貯金や不動産を相続してもそれを有効に活用できず手続きに係る手数料だけが無駄にかかってしまうことにもなり兼ねません。
 このような場合に、遺言書で兄弟姉妹や第三者(財産を残したい個人や応援団体)に遺贈する、あるいは両親への相続分は残しつつ誰かを遺言執行者にして手続きを行ってもらったりすることができます。

7.相続人以外の人に財産を残したい場合
●内縁の妻や夫
戸籍上の婚姻関係がない事実婚の場合、法的に相続人となることができません。このような関係にあって、法的に相手の方に財産を残したい場合は、遺言をする必要があります。
●亡き子の配偶者(嫁など)
長男夫婦が同居していたが長男が先に亡くなり、お嫁さんが義理親の面倒を見てくれるという場合があります。お嫁さんと養子縁組をしていなければ、遺言でする以外、お嫁さんは相続人でないため何も受け取ることはできません。

8.ペットのお世話を頼む場合
 自分が亡くなった後、残されたペットのお世話をしてくれることになっている方に飼育費用を渡す場合、ペットのお世話をすることを条件に財産を渡す負担付遺贈を遺言ですることができます。ペットのお世話を頼む場合は、信託の方法をとって個人や法人にお願いすることもできますが、いずれにしても、最後まできちんとお世話をしてくれる信頼できる相手の方や団体を見つけておくことが肝要です。

9.相続人同士が不仲なとき
 相続が”争続”になることは決して珍しいことではありません。また、相続争いはお金持ちだからというわけでもありません。
 現代社会では各人の権利意識が高く、相続の際には配偶者の意見も強く影響してきます。また、日本においても徐々に貧富の差が広がりつつあり、お金が絡む問題になると家族とはいえ、そう簡単に収まらないことが多いのです。
 司法統計によれば、2020年におこった相続トラブルのうち、遺産額が1,000万円以下の家庭が約35%、1,000万超え5,000万円以下の家庭が約43%と、トラブルになる約80%は世帯全体の約90%を占めるごく普通の家庭で起こっているのです。
 なるべく遺族が揉めないような分け方を、ご自身の遺志とともに遺言で残しておくことで、相続トラブルを防ぐことができる場合があります。

10.法定相続人が全くいない場合
 遠い親戚はいても法定相続人がいない場合、特別な事情がなければ遺産は国庫に帰属することとなります。遺言を残すことで、最後に自身の面倒を見てくれる方や応援する団体に寄付することができます。